「古の神代の昔山跡の、国は都の初めにて、妹背の初め山々の、中を渡るる吉野川、塵も芥も花の山、実に世に遊ぶ歌人の、言の葉草の捨て所」
帝を追い落とし権力を手に入れた蘇我入鹿が暴政の限りを尽くしていた時代、吉野川を挟み太宰後室定高と大判事清澄は、互いの領地をめぐり対立していた。一方で両家の子供である雛鳥と久我乃介は恋仲であり、両家の不和のために一緒になれない身の不幸を嘆く。
妹山、背山に満開の桜が咲き誇る中、蘇我入鹿は帝と内通していると定高と清澄に疑いをかけ、雛鳥を側室に、久我乃介を臣下にするよう迫る。命令に従わぬ時はこの花のように散らせると威嚇し、満開の桜の枝を二人に与える。
二人は入鹿の命令を子供が受け入れれば花がついた桜の枝を川に流そうと申し合わせるが、その想いはかなわず子供たちは忠臣貞女の操を立てて死を選ぶ。定高は、せめて久我乃介の息があるうちに娘を嫁入りさせたいとして、雛鳥の首を乗せた琴と雛人形の嫁入り道具を吉野川に流す。死して祝言を行う事で両家の長年の隔たりと親たちの想いは川へ解け流れ、吉野川はより一層漲るばかりだった。