江戸自体の初め頃、左甚五郎という宮彫りに優れた名人がおりました。
ある時、甚五郎は上野寛永寺に奉納する龍の造作を命じられたが、今まで龍など一度たりとも見た事が無かった。仕方なく江戸中の龍の彫り物を見て回るものの、なかなか手本になるものには出会えなかった。困り果てた甚五郎はこれが最後の神頼みと上野不忍池の弁天堂を拝んで帰った。
その日の夜、甚五郎はある夢を見た。弁財天が琵琶を奏でながら二人の天女を従え、目の前にその神々しい姿を現した。弁財天は「甚五郎、見よ。」と発すると、瞬く間に大地は揺らめき荒れ狂う池の奥深くより龍が現れた。甚五郎は大変驚きながらも、これは好機と一心不乱に龍を彫るのであった。
夢から覚めた甚五郎は、己が両の眼に焼き付いた龍の姿を見事彫り上げ、上野寛永寺に納めることができました。
伝説の名工と謳われた、左甚五郎の昇り龍の場面でございます。