北山の鳴神上人は、願いのかなわぬことから朝延を恨み、世界中の竜神を、滝壺へ封じこめた。それによって天下がひでりになった。民百姓の苦しみを救うため雲絶間姫という美女が宮廷から派遣され、色じかけで上人を堕落させる。行法が破れたので竜神は天に上って雨が降り、怒った鳴神は、雲絶間姫のあとを追う。宗教と人間の本能との葛藤という今日的なテーマをもち、健康なエロティシズムをたたえた異色の古典劇。雨絶間姫が煽情的な恋物語で上人の心をとろけさせるところが眼目で、ほとんどが会話劇として構成されているが、だまされたと知った鳴神が憤怒の形相ものすごく荒れ狂う幕切れには、荒事演出が巧みに使われている歌舞伎名場面である。