風流 左甚五郎「昇天の龍の場」

時は江戸時代、大工甚五郎は将軍家の命に依り、上野寛永寺に納める龍を彫るに、龍の姿を一目見たいものと、上野不忍池の弁天様に三七、二一日の願を掛けたが、満願日にも成就せず、落胆しての帰り道、不忍池のほとりに一人の美しい女が佇んでいた。不審に思い甚五郎が問い掛けると、「妾がお前の願いを叶えてやる」と云って美女は池に身を投じた。すると不思議にも弁天様が現れ出で、甚五郎驚く間もなく、一天俄に掻曇り雷鳴轟く中に一匹の龍が昇天したのであります。
これを見た甚五郎は、之こそ意中に描きし龍なりと日夜精根を傾注して、後世に名人とうたわれた、水飲龍の名作を遺したのであります。