京の街に、「身のたけ一丈(三メートル)あまりの天狗が夜ごと現われ、刀を奪い取るそうな」との噂が立ち始めた頃。
弁慶は、五条天神に念じた刀千本に、あと一本で達するという満願の日、欄干にもたれて鴨の川波に輝く月影に陶酔すること暫し。
笛を吹きながら、塗り下駄に天女の羽衣に似た被衣をはためかせ、橋に差しかゝる者あり。
弁慶「すわ得たり」と大薙刀の光りが虹を引いて一颯に振り払う。
美童、橋板を蹴って舞い上がること正に変幻飛鳥の業、回を兼ねて幾数次、精根つき果てた弁慶が伏して名を問えば「我は左馬頭義朝が九男牛若丸」と答う。
七つの年から鞍馬の奥、僧正ヶ谷で武芸を積んだ牛若丸には、比叡山が誇る三千の荒法師に恐れられた流石の弁慶も意の如くならず、自らも名を告げ、主従の誓いを立てるという物語である。
弁慶は、五条天神に念じた刀千本に、あと一本で達するという満願の日、欄干にもたれて鴨の川波に輝く月影に陶酔すること暫し。
笛を吹きながら、塗り下駄に天女の羽衣に似た被衣をはためかせ、橋に差しかゝる者あり。
弁慶「すわ得たり」と大薙刀の光りが虹を引いて一颯に振り払う。
美童、橋板を蹴って舞い上がること正に変幻飛鳥の業、回を兼ねて幾数次、精根つき果てた弁慶が伏して名を問えば「我は左馬頭義朝が九男牛若丸」と答う。
七つの年から鞍馬の奥、僧正ヶ谷で武芸を積んだ牛若丸には、比叡山が誇る三千の荒法師に恐れられた流石の弁慶も意の如くならず、自らも名を告げ、主従の誓いを立てるという物語である。