昔、千歳山の麓にあこや姫という琴の上手な姫がいました。ある夜、姫が弾く琴の音に誘われるように、若者が笛を吹いて現れました。それは幾日も続き、次第に二人は惹かれていきました。若者は、名前を名取左衛門太朗と名乗るだけで、他は明かしませんでした。
ある夜、若者は悲しげな顔で「実は、私は千歳山の老松の精です。明日、名取川に架ける橋の材として伐られることになりました。最後に姫の手で引導を渡してください。」そう言うとすっと消えてしまいました。翌朝、千歳山では一本の老松が伐り倒され、大勢の人が引いても全く動きません。老松が若者だと確信した姫は、そっと松に触れ、これからは多くの人のために橋になるよう囁きました。すると動かなかった松は、橋になることで人々を助け、人々の幸せを願う龍に姿を変え、するりと動き始めました。
名取川には新たな橋が架けられ、あこや姫は、老松があった場所に一本の若松を植え、萬松寺を建て弔いました。