時は正月、鎌倉将軍頼朝の頃、その家臣である工藤祐経が諸大名・傾成らを招き、「富士の裾野の巻狩」の総奉行に就いた祝いの酒宴をしておりました。やがてその席上に、小林朝比奈のはからいで父の仇、工藤と対面したのは曽我十郎・五郎の兄弟。敵討ちにはやる弟・五郎を兄・十郎は時節を待てと押しとどめます。工藤は二人に盃を与え、五月に催される巻狩の総奉行の役目が終わらないうちは私の恨みによって討たれる事は出来ないと告げますが、年玉がわりにと与えたのは狩場の通行許可証の切手。狩場で二人に討たれてやろうと工藤の本心を知った兄弟は再会を約束して別れます。この歌舞伎は「荒事」「和事」「座頭」等の役柄の典型を揃え、音楽を伴う演出の様式美が結集されていて、初春に演ずる事が多いのが特徴となっております。