今を去る四六六年前の永正元年、奥州相馬領行方郡大悲山でのことである。山の麓、吉名村に住む盲目のビワ法師、玉都が眼疾の治療祈願のため百日の願をかけ大悲山の薬師如来に十七日の通夜をした時器量世に秀れた若待が一人参詣し玉都と共に通夜した。そこで二人か色々と打解けよもやま話の末、待が涙を流して話すには、実は和御堂に住む大蛇である。今は身の丈五四丈にもなり住むところがないため、近々大雨を降らせ、この土地三里四方を湖として自分の住みかにするつもりだ。しかしお前だけは助けてやると云って帰って行った。それからしばらくすると薬師如来の化身である少女が現れ玉都に「今世で自分一人の命が助つても数万人の方々を殺しては末世でも又盲目となる諸人の命を助けて下さい」と云って消えて行った。玉都は自分の考えの浅さを知り早速、小高城の城主充胤公に言上した。充胤公は直ちに大蛇退治の作戦を練った。千葉新五左エ門、浮島太郎を先陣に門馬、木幡、末、太田、岡部六郎、其の他総勢三、七〇〇余騎が大悲山に向った。しばらくすると天地を揺るがす大暴風雨となり、大蛇が池の中から姿を現した。角は枯木の様であり目は日月の如く光り二丈ばかりの顔をのばし襲いかかって来た。七人の待は一瞬親重代の太刀を抜いて真一文字に切りかかったが大蛇はものともせず七人を池の中に引き入れようとした。これを見た充胤公は妙見大菩薩、八幡大菩薩、国主大明神、愛宕大権現、諏訪大明神、鹿島大明神を一心に大願を発すると、大蛇は神通力が簿れたのか一瞬ひるむ隙に岡部六郎が大音を発して大蛇の首を切り落した。その首が虚に飛び上り雲の中から「只今の恨みは三年のうちにはらすぞ」と声高々に聞えたが、その后何事もなく村に平和が続いたと云う事である。